「ザ・クリスタルボール」再読
「アパレル業界のとある会社なんですが、相談に乗れますか?」との引き合いをいただきまして。何でも、在庫管理に問題を抱えているらしいとのこと。「在庫」と言えばやっぱり TOC(制約条件の理論)だよな、ということで、久しぶりに「ザ・クリスタルボール」(エリヤフ・ゴールドラット著、ダイヤモンド社刊)を読み直したりしています。
ゴールドラット博士の「ザ・ゴール」シリーズは物語形式で、ビジネス上の諸問題に対して TOC(Theory of Constraints、制約条件の理論)がどう立ち向かって行くのかを描きます。本書「ザ・クリスタルボール」は、舞台が南フロリダのホームテキスタイル(家庭用繊維製品)の小売チェーン店。ベッドシーツやバスタオル、カーペットなどの布製品を一般消費者に向け販売しています。
主人公は地域に 10 ある店舗のうちの一つで店長を務めており、上がらない売上とオーダーしても商品が入ってこないことに起因する品不足に悩まされています。地域の倉庫マネージャーに「魔法のクリスタルボールの在庫はないか?」と主人公は尋ねるのですが、これは「魔法の水晶玉」があればお客がいつ・どれだけ・どの品物を買ってくれるか分かるのにという、小売業共通の願望が元になっています。
主人公は地下倉庫の水道管破裂事故をきっかけにして店舗在庫の問題と正面から向き合うことになる訳ですが、まぁストーリーの詳細は本書を読んでいただくこととして、今回のテーマは「小売業における在庫と流通」という B2C の事業を営んでいる会社にとっては他人事ではない内容かと思います。
主人公は後に DBM(ダイナミック・バッファ・マネジメント)と呼ばれる在庫管理の手法を編み出して行く訳ですが、バッファとリードタイムに注目して全体最適を図るという辺り、正に TOC の真骨頂ですね。
大規模なシステム投資を必要とせず、発想の転換と必要最小限のプロセス改善で TOC は劇的な成果を得る訳ですが、その姿勢は私自身見習いたいと考えています。コンピューター・システムは「魔法の水晶玉」でも「打ち出の小槌」でもなく、それを使う人間の力で生きも死にもするものです。システムを使いこなすことも含めた「人間の知恵」で、ビジネスを改革することに挑戦して行ければと思います。
冒頭のアパレル会社の件は、結局具体的なプロジェクトにまでは発展しなかったのですが、「在庫管理」はいずれにせよ中小企業にとって必須のテーマですので、知見を深める努力は継続して行こうと思います。
いやぁ、それにしても何回読んでも「ザ・ゴール」のシリーズは面白いですね。他の巻も再読したくなります。